カバードコールのパフォーマンス論

オプション投資の話となると、必ずといっても話題に上がるのがカバードコールです。株式の買いとコールの売りを合わせたポジションで、コールオプションの売りから得られるプレミアムの受け取りを狙いとしています。ほとんど動かない相場が何か月も続いたときはプレミアムの受け取りの累積分だけ株式の買いのみより有利になり、弱気相場でも最大損失を少し抑制できることから人気の戦略となっています。しかし、そのパフォーマンスの実態については(少なくとも国内では)あまり語られていないかと思います。ということで、本記事ではカバードコールのパフォーマンスの検証を行っていきたいと思います。

目次

カバードコールとは

カバードコール戦略の目論見

オプション投資家の入門者向けの書籍には、カバードコールという合成ポジションがよく薦められています。カバードコールとは株式の買いとコールオプションの売りからなる合成ポジションです。一般的には、一定以上の値上がりを諦める代わりにプレミアムを受け取る戦略と言われています。

カバードコールは株式の配当とコールオプションのプレミアム受け取りの2重のインカムゲインを得られる戦略として、インカムゲイン重視の投資家に人気を集めています。しかし、コールオプションのプレミアムは損失限定で権利行使価格以上の値上がり分を丸ごと利益として受け取るための対価として支払うものであるため、コールオプションの買い手と売り手に有利・不利の差は本来存在しないはずです。株式指数が大相場を演じた期間、カバードコール戦略をとっていた投資家は小さなプレミアムの受取と引き換えに権利行使価格以上の値上がり益を諦めなければなりません。また、株式が深刻な弱気相場となった場合、値下がりのダメージはほんの少し抑制できるものの、大差はありません。要は、トレードオフなのです。

カバードコール戦略のパフォーマンスの調べ方

カバードコールの具体的なパフォーマンスについて説明されている記事は少ないですか、実はアメリカのシカゴ・オプション取引所(CBOE)では、カバードコール指数を公表しています。カバードコール指数だけでなく、S&P500とS&P500オプションからなら様々合成ポジションの仮パフォーマンスを公表しています。

例えばCBOE S&P 500 バイライト・インデックス (ティッカーコード:BXM)はS&P500に対し1か月毎にコールATMを売り続けた場合の仮パフォーマンスを指数としています。CBOES&P 500 2% OTM(アウト・オブ・ザ・マネー) バイライト・インデックス(ティッカーコード:BXY)は S&P500に対し1か月毎にコールOTM2%を売り続けた場合の仮パフォーマンスを指数としています。

それらの時系列データを取得できればカバードコールの期待リターンやシャープレシオが分かります。株式指数の期待リターンやシャープレシオと比較判断を行えば、株式指数を単純に保有するのか、カバードコールを組み合わせたのほうがいいのか、ある程度検討がつくはずです。

S&P500カバードコールのパフォーマンス検証

早速ポートフォリオヴィジュアライザーを使って、株式指数の代表格であるS&P500と比較してみましょう。

コールATMを売り続けるケース

比較対象指数

  • S&P500
  • S&P500 – コールATM売り

期間:2000年1月~2021年8月

①シャープレシオ
 カバードコール指数(0.35)のほうがS&P500(0.44)より小さい。
➁最大ドローダウン
 カバードコール指数(-35.81%)のほうがS&P500(-50.80%)より下落に強い。
③相関係数
 アメリカ株式指数との相関性(0.88)は1.00より ほんの少し小さいだけのため、実質的に同じとみなしてよい。

一番大切なパフォーマンス指標であるシャープレシオはカバードコールのほうが悪いという結果になりました。
 

コールOTM2%を売り続けるケース

比較対象指数

  • S&P500
  • S&P500 – コールOTM2%売り

ティッカーコードBXYはポートフォリオヴィジュアライザーには登録されていなかったため、google financeを使ってグラフを比較しました。価格の時系列データのダウンロード機能は提供されていないため、グラフから視覚的に判断していきます。

期間:2017年9月~2021年8月(5年間)

指数のパフォーマンス順位は下記のとおりとなりました。

  1. S&P500
  2. BXY(S&P500 – コールOTM2%)
  3. BXM (S&P500 – コールATM)

カバードコールのパフォーマンスは果たして

カバードコールのパフォーマンスはS&P500より概して低いです。特に、資産の成長率や最も大切な指標であるシャープレシオが負けていたのは厳しいですね。コールオプションは株式が権利行使価格以上の値上がりをしたときにそれを利益にできるポジションです。ということは、潜在的には株式をロングするポジションです。少々乱暴に表現すれば、カバードコールというのは株式の買い+株式の売りのポジションになるため、パフォーマンスは株式の買いのみに劣後するのは理論的には当然となります。

権利行使価格の高いコールオプションのほうが、デルタ値(株式0.xx個分のこと)は小さくなるので、カバードコールのパフォーマンスの劣後も深刻にはなりませんでした。

おまけ:日経平均カバードコールのパフォーマンス

アメリカは金融市場先進国のため、日本と比べてオプション取引の事例の情報が豊富に公開されています。しかし、日本にも日経平均カバードコール・インデックスという指数が作成され、公表されています。日経平均カバードコール・インデックスは、日経平均買いとコールOTM5%売りからなる仮ポートフォリオの指数です。各指数とも時系列データも公表されているので、さっそく検証してみましょう。

コールOTM5%を売り続けるケース

比較対象指数

  • 日経平均
  • 日経平均 – コールOTM5%売り

期間:2011年1月~2021年8月

①シャープレシオ
 カバードコール指数(0.61)のほうが日経平均(0.67)より小さい。
➁最大ドローダウン
 カバードコール指数(-19.97%)と日経平均(-20.04%)とで実質的に等しい。
➁相関係数
 日経平均との相関性(0.96)は1.00よりほんの少し小さいだけため、実質的に同じとみなしてよい。
 

日経平均カバードコール・インデックスはコールOTM5%と、なかなか離れたストライクのコールオプションを売っていて、受け取れるプレミアムも小さくなる。ゆえに最大ドローダウンは日経平均とそこまで変わらず下落抑制効果はあまりない。

(日経平均カバードコール・インデックスはコールOTM5%売りを使っていて、IV=18ならデルタ≒0.2(日経平均0.2個分)であることから、当インデックスは日経平均0.8相当のポジションである。
 日経平均のCAGR(年平均成長率)11.49 * 0.8 ≒ 日経平均カバードコール・インデックスのCAGR 9.27
で、日経平均カバードコール・インデックスのリターンは理論値に近い。)

結論

  • カバードコール戦略のシャープレシオは株価指数に劣る

(実は、株式指数自体のシャープレシオが小さいときはカバードコール戦略が有利になるのですが、別の機会に取り上げてみます。)

拡散すべき内容に達していたらシェアをお願いいたします。

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