株式が綺麗な右肩上がりなら悩むことはないのですが…
株式の長期的な成長と短期的な暴落
株式は他の金融資産に比べて長期期待リターンが6%から7%と高く、資産形成には欠かせない金融資産になります。しかし、株式は他の金融資産と比べて値動きが大きく、株式100%のポートフォリオを組むと資産の下落率の大きさに心が耐えられないかもしれません。印象的な例がリーマンショックやコロナショックに見られるような短期で大きく暴落する相場ですが、10%から20%の中規模な下げは2年に1回ほどあり、その度に頭を悩ますことになります。株式投資とはそんなものだと達観されている方であれば株式100%のポートフォリオを組むことも十分可能ですが、なかなか難しいと思います。
株式にレバレッジをかけると、長期的な成長をより多く享受できるが短期的な暴落で破産する
株式100%でも大きな値動きが発生してしまいますが、株式にレバレッジをかけるとその動きはさらに大きくなってしまいます。株式の期待リターンは数ある金融資産の中でもトップクラスの値を持つため、運用利益を加速するためにレバレッジをかける発想は当然生まれるのですが、2年に1度の10%から20%と比較的な大きな下げや、10年に一度の30%から40%の非常に大きな下げが直撃すると資産は大きく毀損してしまい、それを取り戻すのはレバレッジをかけない場合に比べかなり大変になります。グラフで見るほうがわかりやすいのですが過去の日経平均に対し株式指数50%で運用したもの100%で運用したもの200%で運用したもの300%で運用したもの3パターンをバックテストした結果を比べてみると株式200%期待リターンが理論上が株式指数100%2倍ですがリーマンショックやコロナショックによる大きなダメージが災いして株式100%と株式200%の最終運用成績は似たりよったりとなっています。株式指数300%に至っては株式100%のポートフォリオに大きく負けてしまっています。
なぜ株式指数300%のポートフォリオが株式指数100%のポートフォリオに負けてしまうのかについては次のケースを考えていただくと分かりやすくなるかもしれません。株式は10000円の価格をつけていましたが、今日の取引で30%下落してしまいました。次の日には42.8%上昇し元の価格である10000円を回復しました。株式100%で運用していた場合はポートフォリオにダメージはありません。
しかし株式300%で運用していた場合はどうなっているでしょうか。まず本日の下げで株式が30%下がりましたので、株式300%で運用しているポートフォリオは資産が10000でしたが3かける30%で90%下がり、1000になりました。その翌日株式は42.8%上昇しましたので株式300%で運用しているポートフォリオは3かける42.8%で128.4%上がりました。ポートフォリオは1000×128.4%分だけ上昇し、2284になりましたが元の資産1万にはだいぶ遠い結果になりました。このように大きな変動が生じて結果的に価格が同じになるような値動きにおいてはレバレッジをかけるとそのぶんだけ損失が発生し不利になります。
損失が限定されるポートフォリオを作成する
伝統的な株式と債券からなるポートフォリオ
なのでレバレッジをかける場合は保有しているポートフォリオが大きく下落しないものであることが必須の条件になります。日本株式はレバレッジ2倍で耐えられなくなりますがアメリカの株式や世界全体の株式であれば値動きはもう少し緩やかになるのでレバレッジ2.5倍から3倍までは耐えられます。また伝統的なポートフォリオに株式60%債券40%からなるバランス型ポートフォリオがありますが、株式と債券は景気サイクルに対して大きな逆相関関係※を持っているので長期で見ると損益曲線は平坦になりレバレッジをかけるのに有利な資産になります。(※金融危機に対しては順相関関係になりえます)
(ちなみに、株式と債券とキャッシュからなるシンプルな資産構成でのレバレッジング運用について突き詰めて考察を行われたサイトがあります。ROKOHOUSE式 可変レバレッジド・ポートフォリオ )
これを突き詰めていくと金融市場に対するあらゆる資産を組み合わせて最大損失が小さくなるようなポートフォリオをつくり出し、それに可能な限り大きなレバレッジをかけて資産運用を行えば株式100%のポートフォリオに比べ大きく資産を増やせていけるということです。現実にはブラックスワンに阻まれ大きすぎるレバレッジをかけたポートフォリオは破産することになるのですが、大きすぎないレバレッジは超積極的な資産運用者にとって大きな味方になるのは事実です。
好敵手の「オールウェザーポートフォリオ」
最大損失が小さくなるようなポートフォリオは機関投資家が金融市場のあらゆるデータを使いバックテストを行いその組み合わせを導き出すのですが、世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターの創始者であるレーダリオ氏がオールウェザーポートフォリオというものを推奨しています。オールウェザーポートフォリオは株式30%中期米国債15パーセント長期米国債40%金7.5%コモディティ7.5%からなるポートフォリオです。オールウェザーポートフォリオは単純に最大損失がとても小さなポートフォリオとして優秀ですが、景気サイクルには四季があり好景気か不景気かという軸と、インフレが強いか弱いかという軸で景気を季節として扱い、景気がどの季節にあってもポートフォリオの少なくとも一つ以上の資産が上昇することを狙います。最も分散投資が一般的になるにつれ金融危機時にポートフォリオ現金化のオペレーションで株式も債券も金も商品もすべて下がることが当然起こるようになってきているのですが(今は昔と違う)。とはいえ、金融危機を除けばオールウェザーポートフォリオの金融資産はそれぞれ異なる理由で上昇するので、ポートフォリオの一つのモデルとしては間違いなく優秀です。


オールウェザーポートフォリオのように、シャープレシオを極限まで高めたバランス型ポートフォリオは個人が一から真似するのは難しいのですが、ありがたいことにレバレッジをかけたバランス型投信が2019年頃から普及を始めました。その第一号が日興アセットマネジメントが売り出しを行っている「グローバル3倍3分法」で、株式60%リート40%債券200%からなるレバレッジをかけたポートフォリオとなっています。その後、「USA 360」や「グローバル5.5倍バランスファンド」が登場し種類も充実してきました。株式300%のポートフォリオに比べればよほど現実的なポートフォリオのため、個人投資家にとってはそれらのバランスファンドが登場したことは喜ばしいことであります。
コールオプションを使った投資戦略も負けてはいない
最大損失が小さくなるようなポートフォリオを作成してレバレッジをかけるという観点ではオプションを使用した資産運用術も負けてはいません。アメリカにはブラックスワン ETF(ティッカーコード:SWAN) というものがありまして、残存期間が1年から2年と比較的長いコールオプションを買い、残りの資金で米国債券を買うポートフォリオとなっています。(わかりやすく解説するサイトがあったので紹介します。SWAN – A Review of the Amplify BlackSwan ETF for Downturns )
具体的な資産構成比率は以下のとおりです。
- LEAPSコールオプション 10% (ターゲットエクスポージャーはS&P500の70%、つまりオプションのデルタは0.70)
- 米国10年債 90%
実質的には株式70%債券90%の計160%からなるレバレッジポートフォリオになりますが、コールオプションの特性で、平時の時間経過による減価と引き換えに大きな下げによるダメージを限定的にする力を得ます。
ブラックスワン ETF の過去のパフォーマンスは下記のグラフの通りになります。ブラックスワンETFは設立が2019年1月と(執筆時点では)まだ日が浅いのですが、2020年3月のコロナショックを含んでいるので観測期間としては悪くありません。アメリカ株式100%と比べ動きを比較的緩やかに抑えられていることが見てとれるでしょう。シャープレシオもS&P500の1.40に比べ2.08と大きいです。
portfoliovisualizerでバックテストを行いました。


US Mkt Correlation:米国株式市場との相関係数 とりうる値は-1~1で、小さいほどよい。
ブラックスワンETFでレバレッジ運用のシミュレーション
仮にブラックスワン ETFにレバレッジをかけて運用を行った場合、レバレッジはどれくらいまで耐えられるのかバックテストを行いました。レバレッジ3倍以上はそもそも証拠金の関係で実現は難しいですが、シミュレーションで特性をみるためにケースを設定しています。
- レバレッジ3倍で運用するケース
- レバレッジ6倍で運用するケース
- レバレッジ9倍で運用するケース
レバレッジ3倍で運用するケース

S&P500もSWAN ETFも順調に資産を伸ばせていました。
レバレッジ6倍で運用するケース

S&P500もSWAN ETFも順調に資産を伸ばせていますが、SWAN ETFのほうが優勢でした。
レバレッジ9倍で運用するケース

SWAN ETFはさらに資産を伸ばせましたが、S&P500はコロナショックに耐え切れず資産がゼロになりました。
3ケースのシミュレーションからわかること
レバレッジを大きくかけると、かえってパフォーマンスが低下してしまうポイントが必ずあるのですが、適切なレバレッジを事前に推測するのはなかなか難しい問題です。しかし、上記の3ケースからみえることは、最大損失を抑制したポートフォリオやシャープレシオが大きいポートフォリオはそうでないポートフォリオよりより大きなレバレッジに耐えられるということです。
逆に、大きなレバレッジをかけて運用したいときは、いかに最大損失を抑制したポートフォリオを作成できるか、シャープレシオが大きいポートフォリオが作成できるかが重要なポイントになります。損失限定という概念は守りのための投資のイメージが強いですが、レバレッジをかけた超攻めの投資スタイルをとるときこそ真剣に考えなければいけないことであります。
個人投資家がブラックスワンETFと同じ戦略をとる場合何をすればいい?
ブラックスワンETFの構成ポジションは以下のとおりになります。
- LEAPSコールオプション 10% (ターゲットエクスポージャーはS&P500の70%、つまりオプションのデルタは0.70)
- 米国10年債 90%
米国債券のポジションは、日本の東証市場でもETFが出ていますし、投信でも米国債カテゴリーの商品は豊富で、中にはレバレッジをかけている投信もありより少ない資金で構築できますので割愛します。
さて、日本のオプション市場は1限月と2限月の流動性はまあまああるのですが、6限月、9限月先となると流動性がほとんどありません。売買やポジションチェンジが非常に難しいのです。LEAPSコールオプションに相当するコールオプションをいかに買うかについてですが、以下の2通りのやり方が考えられます。
- 流動性の小さい6限月先、9限月先のコールオプションを買う
- 流動性の豊富な1限月先、2限月先のコールオプションで代替する。
1限月先、2限月先のコールオプションでデルタ0.70相当のポジションを構築するには、複数のポジションを購入して足し算してデルタ0.70相当にしてもよいですし、ITMのコールオプションを一つ購入してデルタ0.70にしてもよいです。しかし、短期のコールオプションを買うと日々の時間経過によるプレミアムの減価も痛く短期的なパフォーマンスは不安定になります。そこで、コールオプションでブルスプレッドを組んで、時間経過によるプレミアムの減価を抑制する手法をとることもできます。
日々の時間経過によるプレミアムの減価を気にしない場合、インプライドボラティリティにはカーブがあり、なるべく低いIVのストライクを買うのが長期的なパフォーマンスはよくなるので、コールオプションはIVが最小値をとるストライクを買うのが好ましいです。
ブラックスワンETFと同戦略をとるポジショニングの構築例
株式:日経平均オプション 1限月ストライク103のコールオプション×2(デルタ0.50相当)
債券:野村米国債券4倍ブル 25% (つまり米国10年債100%)
まとめ
シャープレシオの高いポートフォリオの資産構成比率の情報が公開されていたり、レバレッジをかけたバランス型投信が普及されていて個人でもアクセス可能であったりと、良い時代になりました。しかし、オプションを用いてシャープレシオを高めた資産運用を行うことは可能です。平凡なリターンで満足できない方は、オプションを用いて最大損失を抑制した上で大きなレバレッジをかけた投資を行い資産の拡大を加速させていきましょう。