ボラティリティスマイル形状
株式市場のボラティリティカーブはフラットではない。株式市場のボラティリティカーブがこの形状になったのは、1987年のブラックマンデーが契機とされ、それ以前はもっとフラットだったそうだ。ブラックマンデーを経験した機関投資家はポートフォリオを下方リスクから守るため、プットオプションを保険として買うようになった。その結果、ボラティリティカーブはプット側が高くなるようなカーブ(ボラティリティスマイル)を描くようになった。プット側にみられる勾配は、2007年のリーマンショックや2020年のコロナショックを経験して以降、より急になっているように見える。
低いIVを買って高いIVを売ること
ボラティリティカーブを見た投資家は、低いIVを買って高いIVを売る戦略を検討することが考えられる。プット側でそれを実現したポジションは、市場では売買比率に応じてプットベアスプレッドやプットレシオスプレッドと呼ばれている。プットベアスプレッドのデルタはマイナスで株式原資産とは逆向きに変動するポジションになるが、このプットベアスプレッドの期待値がプラスなら、株式原資産と逆相関で期待リターンがプラスの資産を見つけたことになる。
グリークス評価
例えば2021年7月10日(金)時点の日経225の9月限プットオプションを例としてみる。
各ストライク毎にグリークスを記載し、低いIVを買って高いIVを売るポジションとして3パターンを例として上げる。
(1)プット28000を1枚買って、プット25000を1枚売るケース(プットベアスプレッド)
(2)プット28000を1枚買って、プット25000を2枚売るケース(プットレシオスプレッド)
(3)プット28000を1枚買って、プット25000を3枚売るケース(プットレシオスプレッド)
結果は下表のとおりとなる。注目すべくは(2)のケースでガンマロング、ベガロング、セータロングを同時に達成したことである。これは、低IVのプットオプションだけを買った場合に比べ、高IVのオプションが持つガンマ・ベガに対して相対的に高い値のセータを売ることで、ガンマ・ベガをロングにしつつセータをロングにできたからである。

(ガンマ・ベガは確かにロングだが、それは原資産が変動しなかった場合の話で、数年に一度の大暴落が起こり原資産価格が売っているストライクに近づくとあっという間にガンマ・ベガショートで大損失を生むので注意すること。そんなにうまい話ではない。)
日経平均でプットベアスプレッドを実践した場合のグラフ

プットベアスプレッドを組み続けた場合、日経平均と比べてパフォーマンスはどの変動したかを示したグラフ。ボラティリティカーブの勾配を効率的なケースと市場価格通りのケースの2つに分けてバックテストを行うと上のグラフのようになる。ここで、プットベアスプレッドは、ボラティリティカーブの勾配度にもよるが、オプションが持つデルタに対応するあるべき期待リターンからIVを逆算した値を「IVが効率的なケース」として、オプション市場で値付けされているプライスから逆算しボラティリティカーブに合わせる形でIVを算出した値を「IVが市場価格通りのケース」として、比較している。日経平均と逆相関であり、同じく逆相関である日経平均空売りのパフォーマンスと比較してみてほしい。日経平均をショートするポジションとして、プットベアスプレッドが優秀であることがわかるだろう。
(ちなみに、オプションを満期まで保有した場合の期待リターンは、オプションが持つデルタ値×原資産のリターンとされる。例えば、月次平均リターン0.60%の104コールオプションがデルタ値0.25である場合、104コールオプションの期待リターンは0.25×0.60%=0.15%。104コールオプションでカバードコールを組んだ場合、カバードコールの期待リターンは(1-0.25)×0.60%=0.45%。カバードコールは理論上は期待リターンを押し下げる。これは、シカゴ取引所にて算出しているカバードコールのグラフから見ても成立するように見える。)
まとめ
低いIVを買って高いIVを売るプットベアスプレッドは、参照元の原資産と逆相関であり、原資産と組み合わせることでデルタの動きを制限しつつポートフォリオ全体のリターンを底上げすることができた。つまり、シャープレシオが向上することが観察された。プットベアスプレッドは、しかし残念なことに、単体では特にパフォーマンスは出せていないことも確認できた。プットベアスプレッド自体はポジション組成時はデルタマイナスで、原資産の持つプラスの期待リターンをショートする、それを相殺するほどのアルファをプットベアスプレッドは算出できなかった。