債券現物と債券先物のリターン構造の違いについて

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債券現物と債券先物

金融資産の大切なクラスに株式と並んで債券があります。債券は株式と違って値動きが緩やかなキャピタルゲイン資産でありますが、金利上昇には弱いですね。

多くのバランス型ファンドでは債券現物に投資を行っているのですが、レバレッジ型のバランスファンドでは債券先物に投資を行っていることが多いと思われます。実は債券を現物で保有する場合と先物に投資する場合とで投資効果に違いが出ます。

債券のリターンの種類について

(1)キャリー(利子)

長期債券の金利のことです。

(2)ロールダウン

長期債券を1年間保有して期間が短くなった債券を新しく期間が長い債券に買い換える投資オペレーションについて考えてみましょう。実は債券は年限ごとに利回りが異なっていてそれをグラフに表したものをイールドカーブと呼んでいます。投資した当初は10年物の債券でしたが1年経った時9年物の債券になりました。イールドカーブが全く動かないことはありえませんがほとんどのケースで期間の長い債券の方が低い債券よりも利回りが高い形状をとります。年限の長い債券の利回りが高いイールドカーブを順イールドと呼んでいます。話を単純化するためにイールドカーブが不変であった場合を考えると、当初投資をしていた10年物の債券は9年物になり利回りは下がりました。利回りが下がったぶん債券の価格は上昇したので、10年物の債券に投資をした人は債券の利子に加えて債券の価格上昇による利益を得ることができました。時間経過による利回り低下で債券価格上昇リターンはロールダウンと呼ばれていて、長期債券に投資する投資家にとって重要なリターンの一つになっています。

(3)インフレ

インフレは債券に負の影響を与えます。インフレが2%であれば債券の実質リターンは2%下押しされてしまいます。実質リターンが下がるのは株式や不動産も同じようにみえますが、株式や不動産の場合は商品・サービスの値段や家賃をインフレに連動させて設定することが可能です。競争力のある企業であれば物価上昇に合わせて商品・サービスの値段を上げるため、名目上の売上・利益ともインフレの分だけアップします。不動産の場合も物価上昇に合わせて家賃を上げることが可能です。綺麗に連動するわけではありませんが、株式や不動産は債券と比較するとインフレには多少耐性があるとみなせます。

債券先物に投資する場合は債券現物に投資する場合と比べ違った景色が見えてきます。債券先物に投資する場合は証拠金取引により長期債券に投資をすることになります。債券先物を買うのに5%の資金を証拠金として提供すればすみます。この場合、インフレによる直接的なネガティブな影響は証拠金として提供している5%の資金にしか発生しません。インフレによる実質マイナスリターンはほとんど影響がないと考えてよいでしょう。

(4)短期借入金利(政策金利)

一方で、債券先物のように、他から資金を借入したとみなして投資を行うものについては、借入した資金の借入金利分だけのコストが発生します。

債券投資のリスク

(1)金利変動(デュレーション)

一方長期債には金利の変化に対する価格の変化がリスクとなります。年限が長いほど金利の変化に対する価格の変化は激しくなり、金利1%当たり債券の価格が何パーセント変化するかを数値化したものはデュレーションと呼ばれています。

(2)為替リスク

外国債券に投資をする場合、自国通貨建でみて為替リスクが発生します。

債券先物に投資する場合は債券現物に投資する場合と比べ違った景色が見えてきます。債券先物に投資する場合は証拠金取引により長期債券に投資をすることになります。債券先物を買うのに5%の資金を証拠金として提供すればすみます。為替変動は証拠金として提供している5%の資金に発生します。また、債券先物は差金決済であり、決済においてはまず外貨通貨建での差金(含み益、含み損)計算後、自国通貨建に変換します。債券投資における含み益や含み損はほとんどの場合、投資元本よりかなり小さいです。したがって、債券先物投資において為替リスクはほとんど影響がないと考えてよいでしょう。

債券への投資の魅力度をどう判断するのか

長期債券に投資する投資家は債券の利子リターンと時間経過による利回り低下による債券価格上昇リターンとインフルによる実質マイナスリターンに対しデュレーションというリスクを天秤にかけて債券への投資に妙味があるかどうかを判断します。債券にはデュレーションという大きなリスクがあり、残存年限の長い債券ほどデュレーションリスクは大きくなるので、短期債券と比べて長期債券に大きなリターンを求めることになるので長期債券の利回りは短期に比べ高くなる傾向にあります。ただし金融引き締めから景気後退にかけての景気サイクルでは景気後退を見越して金利低下の確率が高いので長期債券が短期債券と比べても利回りが高くない状態まで変わらぬことがあります。象徴的な例が逆イールドですね。株式と違って債券は景気後退で上昇する金融資産のため株式とは逆相関で、株式と債券を組み合わせたポートフォリオはオーソドックスなものとして知られています。

一方で先物投資の場合は資金調達の金利コストのぶんだけリターンが下がります。(近年は先進国がこぞってマイナス金利政策を行っているため債券先物の買い方にとってはマイナス金利のぶんだけリターンが上がります。)インフレと資金調達の金利コストの差は実質金利であるので、債券先物投資のリターンを決めるのは金利水準と10年物と9年物の利回りの差の二つと実質金利の三つのパラメーターになります。

債券現物債券先物
金利
ロールダウン
インフレ
短期借入金利
デュレーションリスク
為替リスク
債券現物と債券先物の投資効果の違い。○は関係あり、‐は関係なしもしくは関係あるが微小。
  • 債券現物のリターン=「債券の金利」+「ロールダウン」-「インフレ」
    債券現物のリスク=デュレーションリスク+為替リスク
  • 債券先物のリターン=「債券の金利」+「ロールダウン」-「短期借入金利」
    債券先物のリスク=デュレーションリスク

つまり、
「債券先物-債券現物」のリターンの差=「インフレ」-「短期借入金利」=-「実質金利」
実質金利がマイナスなら、債券先物は債券現物よりもよい投資先になりうるということです。
(2010年から続く金融抑圧環境では債券先物のほうが有利ですね)

債券先物はゼロリターンの為替リスクさえ除外するので(理論的には短期借入金利変動リスクに転嫁)、不要なリスクを取り除くということで海外債券投資のシャープレシオが上がります。

マイナス金利政策と債券先物

日本とヨーロッパでインフレ率がプラスであるにも関わらずマイナス金利政策が長年続いていますが(預金しても利子がインフレ率に遠く及ばない環境を金融抑圧と呼びます)、債券現物の場合はリターン=「債券の金利」+「ロールダウン」-「インフレ率」でゼロを超えるか超えないかのギリギリであり、積極的に債券に投資をしたいと考える投資家は少数派でしょう。投資をせざるを得ない機関投資家や公の機関が債券の価格を押し上げているともいえるでしょう。しかし、債券先物の場合はリターン=「債券の金利」+「ロールダウン」-「政策金利」であり、「政策金利」<「インフレ率」のため債券先物のリターンは債券現物よりも高くなっています。特に「政策金利」はマイナスなので、債券先物投資家にとってはマイナス政策金利をプラスのリターンとして受け取ることができます。

このように、金融抑圧の環境(つまり、インフレ率>政策金利)においては、債券先物のほうが債券現物よりも有利なのですが、債券現物投資家にとってはせめて債券の金利がインフレ率を超えてくれないと投資対象として選好できないため、投資をせざるを得ない機関が投資をやめることができれば債券の金利が大きく上がる(つまり債券価格は大きく下がる)可能性は十分にありますので、くれぐれも債券にレバレッジをかけすぎることは控えていただければと思います。

(そもそも、昔は財政の基礎体力があったためインフレ抑制のために政策金利をインフレ率以上に設定することができました。今は先進国各刻の国債発行残高が非常に大きくなり、国の利息支払の負担を抑えるという目的のもと各国中央銀銀行が政策金利をインフレ率よりも小さく設定している面があります。昔の時代であれば、債券現物にも十分魅力的なところがあったといえるはずです。)

緊急利下げと金融危機の関係について

話はそれますが、金融危機に発展しそうな時各国中央銀行は緊急利下げを行うことがありますが、緊急利下げによる景気てこ入れの意思表明にもかかわらず緊急利下げの翌日から株式が下落を加速する局面が何度かありました。2008年のリーマンショックでは緊急時作業を行いましたが株式は翌月の10月まで大暴落になりました。2020年のコロナショックでは経済停滞による資金停止を防ぐため緊急利下げを行いましたがやはり株式は3月の半ばまで大暴落しました。これは逆に緊急利下げによる影響によるものと考えることができます。緊急利下げを行うと期間10年と短期とで利回りの差が拡大します。利回りの差が拡大すると長期債券のリターンを決める大切な要素のうちロールキャリーによるリターンが拡大します。つまり長期債券の投資が一気に魅力的になるのです。株式の方は回復するかどうかが不明ですが長期債権の投資リターンの拡大は確定されました。機関投資家は魅力度が上がった長期債券に投資するための資金を確保するために保有している株式をいち早く売り払った結果、株式の大暴落につながったのだと見ることは一理あると思います。

まとめ

  • 債券現物のリターン=「債券の金利」+「ロールダウン」-「インフレ」
    債券現物のリスク=デュレーションリスク+為替リスク
  • 債券先物のリターン=「債券の金利」+「ロールダウン」-「短期借入金利」
    債券先物のリスク=デュレーションリスク

つまり、
「債券先物-債券現物」のリターンの差=「インフレ」-「短期借入金利」=-「実質金利」

債券先物のほうが為替リスクをとらず、金融抑圧環境化ではリターンも大きい。個人投資家は債券先物に投資するのはハードルが高いが、債券先物を取り扱っている投資信託の購入を通して実行できる。

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