ボラティリティ指数
皆様はボラティリティ指数について聞いたことがあるでしょうか。ボラティリティとは資産の値動きがどれだけ激しいかを数値で表したものです。「相場は上げ3日下げ1日」と言われていますが、特に株式相場は下げ始めると上昇相場より変動が激しいのは皆さまが経験されている通りであります。ボラティリティは相場が下がると上昇しがちなことから、ボラティリティ指数は別名「恐怖指数」だなんて言われています。ボラティリティは過去の変動値から算出するタイプと、オプション市場でこれから満期までの間に予想されるタイプの、2種類がございますが、ボラティリティ指数は後者のタイプ(インプライドボラティリティー)を採用しています。
さて、そんなボラティリティ指数ですが、金融業界では大半が株式指数の変動の激しさを表すために使われています。ボラティリティ指数はほとんどの時期で15~70をとるレンジ的な値動きをしています。もしボラティリティ指数そのものを取引できるのであれば、ボラティリティ指数が低いときに買えば、ボラティリティが高騰したときに売り抜けることができます。

ボラティリティ指数そのものを取引することはできませんが、ボラティリティ先物が存在しておりそれらを取引することでボラティリティ指数を疑似的に売買できます。日経平均の場合は取り扱う証券会社が限られますが日経平均ボラティリティ先物が扱えます。S&P500の場合は東証上場の銘柄コード1552(VIX-ETF)が扱えます。
しかし、ボラティリティ先物及びVIX-ETFには大きな問題が存在します。それはボラティリティの期間構造に起因するものなのですが。ボラティリティ先物は残存日数毎に取引されており、多くの場合は以下のように限月が先の先物ほど数値が高くなっています。このような期先高の期間構造をコンタンゴと呼ばれています(その逆はバックワーデーションです)。

とある投資家はボラティリティ先物を購入しました。満期が迫ってきたので、残存日数が長い先物に買い替えることになりました。上のグラフの場合だと、価格20.45の先物を売って、価格21.900の先物を買うイメージです。同じボラティリティ指数を売買しているのに、安く売って高く買うことになっています。これを年中繰り返すと、あっという間に損失の山ができてしまうのです。
VIX-ETFのパフォーマンス
単純保有がポートフォリオに与える影響

ボラティリティ自体はアメリカ株式との相関性が-0.70–0.80と、ほぼ逆相関であることがわかり一見分散投資先として有用に見えるのですが、VIX-ETFのあまりにもひどいマイナスリターンがポートフォリオの足を引っ張ってしまいます。


S&P500のヘッジのためにVIX-ETFを購入する場合、ポートフォリオの足をほぼ確実に引っ張ってしまいます。
(強いていえばS&P500:VIX-ETF=85:15のポートフォリオ(グラフの赤色線)は綺麗な右肩上がりが実現できているようには見えなくもないですが。相関係数もほぼ0に近く、S&P500が下落している時期でもノーダメージです。しかし、期待リターン自体はほぼ0です。アメリカ株式との相関性をほぼ0に抑制できているので、レバレッジに適しているポジションかもしれませんね。)
限られた期間だけVIX-ETFを保有する戦略
VIX-ETFは内部で期近先物を売って期先先物を買うオペレーションを行っていると上述しました。そして、ボラティリティの期間構造は大半の時期でコンタンゴ(残存日数の大きい先物ほど価格が高い)となっています。したがって、安く売って高く買うことになってしまいます。しかし、ボラティリティの期間構造の大半がコンタンゴなのであって、全ての時期でコンタンゴなわけではありません。稀に、バックワーデーションが見られます。よくみかける相場の荒れは、1か月程度は続くけどそのあとは何事もなかったように戻ることも多く、ボラティリティ指数の期間構造はそれを見越してか、期近のほうが高く期先のほうが小さくなります。また、ボラティリティは年間を通じて大人しいことが多いですが、一度急騰すると一気に突き抜けます。上がるときだけ持っていればいいので、恥ずかしいですがここはテクニカル売買で、検証していきます。
日次の価格時系列データはportfolio visualizerでは扱えないので、日本の証券会社が提供しているデータを取得します。東証上場のVIX-ETF(銘柄コード:1552)はS&P500のボラティリティを参照しています。1552の時系列データを取得したら、ブレイクアウト10日(※期間は何日でもいいと思います)のシグナルに基づきホールドしたと仮定したパフォーマンスを算出します。ここでいうブレイクアウト10日は過去10日間より今日のほうが高い価格で取引されていれば、モメンタムがあるとみなして買う戦略のことです。VIX-ETFの単純保有とブレイクアウト10日のシグナルに基づきホールドした両ケースをグラフにしました。

VIX-ETFの単純保有はCAGR、シャープレシオともに最悪なのに対して、ブレイクアウト10日はCAGRのマイナス値を必要最小限に抑えることができました。保有している期間が短ければ短いほど、VIX-ETFの内部で行われている「期近を安く売って期先を高く買う」を回避できます。その結果、減価の激しいVIX-ETFについてはブレイクアウト手法によって減価を最小限に抑えることができたのだと思います。

まとめ
- VIX-ETFの単純保有は株式指数との相関係数はマイナスで分散投資先として有用であるようにみえるが、リターンがひどくマイナスのためポートフォリオの足を引っ張る
- VIX-ETFの内部で行われている「期近を安く売って期先を高く買う」をなるべく避けるために保有期間を短くする戦略は、VIX-ETFの単純保有よりはマシである。